TIPコラム

2つの庭をもつ都市型住宅   パティオのある家(1997)

2024.05.23

北側正面。中のようすは入り口からは、まったく想像できない

 パティオとは、スペインの住宅の中庭をいいます。建築を周囲の環境から切り離して、その内部に自然を抱え込むことで、新たな住環境をつくり出します。計画当時、南隣りは1.5メートル上がりの土地に2階建ての住宅、東隣には4階建てのマンションがあり、検討の中で選ばれたのが「コ」の字型の配置でした。床石に花崗岩のはられた約6×8メートルの広さのパティオには、植栽と水盤があります。さらに、この住宅を豊かに彩るのが、南側のルーフガーデン。1階寝室部分のフラットルーフにつくられた庭は、広さ約4.5×8メートル(約10坪)に、平均すると約40センチの土を盛り、植栽されていますが、その様子は、空中大地といえるほど、2階に新たな土地が付け加わったかのようです。

パティオより西側を見る。パティオに突き出た三角のガラス張りの 1 階浴室、2 階のキッチン配膳台は 2 つの庭を見る絶好のポイントとなっている(左) パティオより東側を見る。丸い石碑は秋篠宮来訪記念に製作したもの。パティオと同レベルの寝室は、連続性のある空間となっている(右)

 建築の内部にパティオとルーフガーデンという外部スペースをつくることは、都市住宅としての新たな挑戦。その出発点には、設計者・林雅子と建築主のランドスケープアーキテクト夫妻の協働作業がありました。建主の夫は、最初から、2つの庭を明確に意識しており、1階のパティオを南面する池に見立て、水面に天を表現した「天の庭」、2階は土の道が野や山をめぐる「地の庭」とし、2階の居間とルーフガーデンをブリッジで結ぶことで、回遊式とすることを設計者に提案して受け入れられています。1階を天、2階を地と真逆に見立てるユーモアを感じさせられます。また、パティオを設けることで可能になったのは、パティオに面した全面ガラス張りの浴室。ここは、パティオと2階のルーフガーデンを望むことができる絶好のポイントとなっています。 

2 階の三角のガラス張りのキッチン配膳台。その正面にはブリッジ、右側にルーフカーデンを望む
2階ブリッジよりルーフガーデンを望む
まるで平地の庭のようなルーフガーデン。道はジグザクに切ってある。植生は、竣工以来、ほぼ保たれている

 竣工から20年が過ぎ、予想もしなかったこともあります。パティオに植えたシダレザクラは日当たりのためか勢いがなく、植え替えたノムラカエデも同様で、木を植えることを諦めることになりました。いまでは、建主の鶏のコレクションを見るために訪れた秋篠宮を記念した石碑が置かれています。また、2階のルーフガーデンには、人以外のさまざまな来訪者があり、野鳥、蝶、トンボなどがやってくるだけでなく、カマキリやアリ、ナメクジなどが住み着くこととなりました。建主によると、約300メートル離れたところに大きな池のある公園があり、同じくらいの距離で墓地公園があるため、この家の庭は彼ら生き物たちの通り道となっており、休憩所ともなっているとのことです。2つの庭がつくられることで、こうした新たな生き物たちの世界が生まれたというわけです。(鈴木洋美)