TIPコラム

鳥取の山中にある小さな国宝建築   三仏寺投入堂(平安後期)

2022.11.29

 

投入堂を見上げる

 この建築と出会うためには、まず登山からはじまります。健脚でなければ、そこにはなかなか辿り着けないともよくいわれます。それもそのはずです。鳥取県東伯郡の三徳山中の絶壁にそれはあるのです。山を修行の場とする修験道の道場でもある三仏寺の奥院の岩山の窪みに建てられたのが投入堂なのです。

三徳山の鳥居をくぐる、 階段の先に登山道がある

 鳥居をくぐり、階段をかけ上がると、ふつうの登山道が続きます。小一時間、歩いてようやく念願の投入堂と対面することとなります。よくもまあ、自然にできた窪地に建てたものだというのが最初に訪れる感慨ではないでしょうか。自然の中に、たくみに建築が埋め込まれた印象をもちます。それは、人間の日常的に用いる「建築」というよりも、日常の用から離れたモニュメント的なように見えます。このように、創建当時から、投入堂は修行に励む人たちを静かに身守り続けたのでないだろうかと、投入堂を前に立ちながら浮かんだ考えです。

投入堂外観

 日本建築史から投入堂を見ると、投入堂は「懸(かけ)けづくり」の代表的な建築とされています。実は、京都の清水寺も懸けづくりの代表的な建築ですが。そういえば、投入堂のすっと地面にのびた何本もの木の柱から、自然に、清水寺の格子状に組まれた長い束柱が想像されてきます。懸けづくりとは、山や崖にもたせかけたつくりとなった建築をいいます。ここでは、背面となっている崖面をたくみに利用し、高さの異なる木の柱を何本も立てることで、水平な床をもち上げているわけです。切り妻屋根の三方に庇があり、隅には小庇が掛けられています。

 投入堂の建築年代は、平安後期と想定されています。建築史家らの調査によると、現在にいたるまでに、いく度もの改修作業を積み重ねられられることで原形が伝えられてきたようです。現在、投入堂が残されているのは、木という耐久性には少々難はあるものの、軽くて部材単位で交換可能な木造建築の長所をよく活かしたからだと思われます。投入堂は、1952年に国宝に指定され、ユネスコの世界遺産に登録する動きもありますが、それはまだ実現はしていません。 (鈴木 洋美)