TIPコラム

駅舎からパリを代表する美術館へ   フランス・パリのオルセー美術館

2022.06.28

美術館の上部より展示空間を見下ろす。美術館の内部の佇まいは駅舎時代のまま

 パリを訪問したら、真っ先に行きたい美術館のひとつがオルセー美術館。そこは19世紀の美術を中心とした展示の場となっており、マネ、モネ、ルノワールらの印象派、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンらの後期印象派の名画に出会うことができます。この美術館の中心には、地階から大天井へと続く大きな吹抜け空間があります。その最下階(地階)には、彫刻や壁一面を占める高さ5mほどの巨大な絵がかけられています。いったい、なぜこの美術館は、こんな雄大な吹抜け空間をもつことができたのでしょうか。それは、歴史を紐解けがわかることですが、ここがもともと駅舎とホテルを兼ねた建物であり、建物の最深部には電車の線路が引き込まれていたからなのです。

旧駅舎時代の内観

 1900年のパリ万博に合わせて、駅舎とホテルを併設したものとして、パリ中心部の南西に建てられました。当初、フランスの南西方面に向かう10線以上のホームがあったそうですが、狭隘で使い勝手が悪く、駅舎は郊外へと移動します。建物はさまざまな用途に用いられることになり、幸いにも1987年に美術館として立派に生まれ変わりました。

 この美術館の特徴は、オルセー駅時代の建物の特徴をうまく引き継いでいます。たとえば、美術館の上部からその最深部に目を向けてみましょう。真っ直ぐにつづく大屋根(トレイン・シェッド)の下には、線路が敷き込まれて駅舎の中心部でしたが、吹抜けをもつ大展示空間へとそっくり変えられています。自然光が降り注ぐトップライト状の屋根の様子、内装まで、当時の写真と比較してみると、忠実に引き継いでいることが確認できます。

セーヌ川越しにみるオルセー美術館

 外観写真を見るとわかるように、セーヌ川越しにみるそのファサードは、いまなおパリにかかせない景観の一部となっています。こうした駅舎時代から続くと思われる佇まいと周囲との調和したあり方が、解体されずに済んだ大きな理由ではないかと改めて思われてきます。

時計裏の内観

 外観から見られる大時計の内部は、飲食ができるように改装されて楽しい空間になっています。いまでは、駅舎から美術館へと用途変更(コンバージョン)した成功例としてもっとも有名な事例となっています。 (鈴木 洋美)