TIPコラム
村野藤吾の「くじらの教会」 宝塚カトリック教会(1965)
2026.09.30

設計者の村野藤吾自身が、この教会を安住の地を見つけて岸辺に打ち寄せられた白鯨にたとえています。残されたスケッチを見ると、入り口のある正面はくじらの頭に、ピンと空に向けて伸びた尖塔はくじらの尾に見えてきます。とはいえ、その全貌を捉えることはなかなかできません。阪急今津線の宝塚南口駅から歩いてアプローチすると、最初、尖塔が見え、さらに近づくと特徴的な粗い白モルタル吹付けの外壁へと行き当たりますが、その全体を視野に収めることはできません。東側を阪急今津線に、西側を民家に接した三角の敷地形状に建てられた三角平面の教会のくじらの外観を確かめるには、空から見るのが一番手っ取り早いでしょう。屋根を葺き替えた後にドローンで撮影した写真を見ると、確かに、その外観をよく納得することができます。

くじらを連想させる教会は、教会本来のあり方を私たちに想起させます。扉を開けて、くじらの体内へと入っていくことは、洞窟の中へと入るようでもあります。それは、旧約聖書の「ヨナ書」で、神の意思に反したヨナが三日三晩過ごした魚の腹の中に過ごしたエピソードへとつながります。インテリアとしては、くじらの形状が内観へとつながっているのが興味深いところです。

三角平面の中心、つまりくじらの背骨にあたる部分には、祭壇と尖塔が置かれています。何よりも特徴的なのは、曲線を描く天井です。村野のこだわりが強かったところで、現場で職人と何度も話し合う姿が見られたというエピソードがあります。屋根の形状に合わせて、白ラワン材で仕上げています。阪急今津線に沿った東側のハイサイドライト、隣家に接した西側にはスリット状の開口部がもうけられ、この天井の曲面が陰影を含んだ光をつくり出しています。イグサを編んだシンプルな椅子が200脚。信者席、告解室、小聖堂などが380㎡の中に、必要にして十分なかたちで収まっています。


竣工して今年で61年目。つい最近、祭壇右側のマリア像あたりから雨漏りが激しくなり、調査の結果、銅板葺きの屋根を葺き替えました。多額の修繕費が必要となり、信者からの募金でまかなっています。また、椅子のイグサの張り替えは、業者に頼まずに信者たちがやったので、よく見るとそれぞれに個性的です。このように、ここを活動の場とする信者たちによって守られている建築のあり方は、とても好ましいものだと感じさせられます。その人々の愛着心を生み出しているのがくじらのデザインということになります。ちなみに、1980年、村野が89歳の時にカトリックの洗礼を受けていますが、この宝塚教会に在籍していました。(鈴木洋美)


