TIPコラム

広大な敷地に広がるガウディ世界   グエル公園(1900-1914)

2023.10.25

階段より入り口付近を見る。守衛棟の頂上には「イチゴ」がのる

 バルセロナの中心から離れた15ヘクタール、おおよそ甲子園球場が4つ入る広大な敷地に建つ、高架道、造園、建築からなるガウディ世界。ガウディの終生のパトロンであった事業家エウセビオ・グエルがイタリアにならった田園都市を夢見たものの、紆余曲折の末に公園のプロジェクトへとかたちをかえたものです。お菓子の家のようにみえる事務所棟の裏にあるショートケーキのイチゴのような頂上にもつ守衛所棟を過ぎると、ガウディ世界へ一歩、足を踏み入れたことになります。

多柱室

 目の前に展開するのは、ギリシアの神殿風の11本の柱の林立する姿です。水を吐くドラゴンで有名な階段をのぼると、柱が林立する「多柱室」へと到ります。15メートルほど上がったことになります。そこには、高さ5メートルを超える86本の柱が、おおよそ4メートル・グリットで等間隔で並べられています。グエル公園は、ギリシアの神殿に想を得ていると言われますが、かなりの広さです。ギリシアの神殿のスケールが超えているはずです。多柱室の上は、造成された土地と併せて野球場ひとつ分の広場となっています。そこからはバルセロナ市街をのぞみ、さらにその遠くに地中海を望むことができます。プロジェクトとして大赤字で採算も立たない中で、バルセロナを代表する資本家の一人、グエルはガウディを支えつづけました。その理由は、二人は、バルセロナから世界へメッセージを送る気概をこのプロジェクトに込めたからかもしれません。

多柱室の上にある広大な広場。周囲には蛇行ベンチが連なる

 バルセロナに在住のガウディ研究家、田中裕也が実測を開始したのはグエル公園の階段からでした。バルセロナにある「泥棒市」で10mの巻き尺を手に入れた田中は、それを手にガウディ建築を実測することで、ガウディ建築の解明への手がかりを求めました。そうした努力の末に、グエル公園の建設をめぐるいくつもの謎が解明されていきます。施工中の写真、修復工事で明らかになったことを含めて、敷地内の全長2キロメートルに及ぶ高架の柱はプレキャストコンクリート(PC)であることを突き止めています。現場打ちのコンクリートでは不可能な2年間という期間で構造部を仕上げ、表面の仕上げはガウディの石ばりが用いられています。

高架の下には半洞窟のような空間が連続的に現れる。傾けられた曲線のような断面。斜めにされた壁が歩く人の身体に近づく

 ガウディの建築の特徴ある曲線と放物線の世界は、直線的で箱型のモダニズム建築とは真逆に見えますが、さまざまな近代的な技術、たとえばカタロニア地方で根付いた薄いレンガでヴォールトをつくる技術と鉄骨を組め合わせる(広場の蛇行ベンチ)などを用いることで成立したものでした。ヨーロッパの周縁にある近代の可能性を、ガウディ建築に見ることができます。(鈴木洋美)

参考文献:田中裕也『実測図で読む ガウディの建築』彰国社、2012

撮影:畑拓