TIPコラム

世紀をまたいだプロジェクトの最終章   サグラダ・ファミリア教会

2023.09.27

誕生の門のファサードを見る。完成に近づきつつあることがわかる(左:2023年1月25日)。誕生の門の裏からみた4本の鐘楼。バルセロナの街区のようすがよくわかる(右:2002年)

 日本における人気の海外建築家はだれか。その一人は、スペイン・バルセロナの建築家、アントニオ・ガウディであることは間違いないでしょう。先日、東京・竹橋の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」へ出かけてそのことを実感させられました。建築にかかわる人にとどまらず、ガウディの建築に興味のある人々が会場いっぱいにつめかけ、ガウディのスケッチ、模型、写真、映像画像に魅入っていたのでした。多くの人々を惹きつける、ガウディ建築の深さと広さを改めて知らされました。

教会の交差部の見上げ、誕生の門方向を見る。自然光と人工の光が混じり合う(左:2023年1月16日)。側廊の光。ステンドグラスを透過したさまざまな色の光が内部を演出する(右:2023年1月25日)

 ガウディは1852年の生まれ。バルセロナ県立建築学校で、建築を学びました。19世紀末のヨーロッパで勃興しつつあった近代建築の影響受けながら、地域に根差した建築を探究。ガウディ建築は、アートとエンジニアリング(工学)の結晶そのものです。ガウディ建築に特徴的なパラボラ(放物線)、アール(曲線)なども美学的であると同時に、工学的に裏付けられていました。中でも、未完に終わったコロニアル・グエル地下聖堂(1898-1916)における逆さ構造実験がよく知られています。建物にかかる荷重を図るために建物を逆さにした画期的な実験。地下聖堂の屋根・天井面のシェル構造の解析を行い、それを絹紙によって3次元曲面を描き天井面を完成させています。現代の構造家から見ても、先駆的な試みでした。

中央祭壇を見る。内部の柱の集合は、まるで森の木のようだ(左:2023年1月15日)。天蓋を見る。四方から吊られている(右:2023年1月18日)

 ガウディがもつ力をすべて傾注してつくられたものがサグラダ・ファミリア教会でした。第二代の主任建築家となり、1914年ごろから73歳で亡くなる1926年までほぼすべてをこの教会に捧げました。ガウディは、永続可能であると同時に美的でもある建築を目指しました。彼は、新たな「ゴシック建築」を目指したとも言われます。

 ガウディがまず取り組んだのは、模型づくりと、数々のモックアップ模型。ガウディ建築のひとつの特質として「演出」を指摘するのがバルセロナ在住のガウディ研究家、田中裕也さん。ガウディの生前につくられた10分の1の身廊上部のバラ窓の模型を実測し、その秘密の一端を明らかにしています。修正幾何学を用いて、地上30m以上の高さに位置するバラ窓を縦に長い楕円にしているのは、地上から見上げる人の目から丸く見えるように、建物に演出を施していたわけです。

受難の門の見上げ(2023年1月2日)

 さて、現在、未完の建築であり続けてきたサグラダ・ファミリア教会が完成に向けてひた走っています。ガウディがなくなった時点で完成していたのは、誕生の門とその背後にある1本の鐘楼(ベルナベの塔)のみ。1930年までに後継建築家フランシス・パウル・キンタナが残されていた3本の鐘楼を完成させます。スペイン内戦を挟んで、残された数少ない資料をもとに受難の門を築き、その後も、担当者が変わりながら続けられ、ガウディの時代には想像もつかない建設方法で、竣工へのスピードは加速されています。とうとう私たちは、まもなく、世紀をまたいでつくられ続けてきた未完の建築の最終章に立ち会うこととなります。(鈴木洋美)

※写真は、田中裕也さんからご提供いただきました。