TIPコラム

パリ郊外の森に舞い降りたヴィラ サヴォワ邸(1931)

2022.01.31

サヴォワ邸の正面に立つ

近代建築(モダニズム)を牽引したル・コルビュジエの代表作が、このヴィラ(別荘)です。建築界の大御所、ボザールらを向こうに回した闘い宣言「近代建築の五原則」を発表したのが1928年ですが、それを見事にかたちとして示したのがこの「サヴォワ邸」です。パリの北西郊外ポワッシーの森の中に舞い降りたかのように、思いのほか大きなスケールで、物静かに、軽やかに立っています。

正面からみると、この五つの要素が作品として一体となっていることに気がつくでしょう。まず、①ピロティです。ル・コルビュジエは、建築を地面から切り離し、軽やかさを演出しています。細い鉄骨の柱が、等間隔で建物を周囲から支えています。つぎに、目を少し上に向けてみます。②水平連続窓です。建築は、常に重力とたたかってきました。そのため、壁は厚さを増すことで、建築の自由を狭めていたのです。外壁と柱を分離してしまい、外壁は連続する窓として軽やかなものへと変わったのです。これが、五原則のひとつ③外壁の自由なデザインとも重なります。ここで、五つのうち三つまでが確認できました。では、中に入ってみましょう。

2階の居間より中庭をみる

1階には、螺旋階段とランプ(傾斜路)があり、どちらかを使って2階に上がることができます。近代建築の五原則では、④自由な間仕切り壁配置です。壁の構造的なはたらきがいらなくなったので、当然、使う人の都合で間仕切り(パーティション)の位置を決められるというわけです。ただ、サヴォワ邸の2階はワンルーム的なしつらいとなっています。そして、最後が⑤屋上庭園です。2階のルーフガーデン(中庭)とランプを上がった3階も屋上庭園となっています。正面から上を見上げたときに目にした、壁に開けられた四角い穴が「ピクチャーウィンドウ」となっていて、サヴォワ邸の立つ敷地の遠景を額縁に入った絵のように見えるというしかけです。

2階、3階の屋上庭園を見る

ル・コルビュジエの「近代建築の五原則」は、都市計画にかかわる提案でもあり、本来、それは高密度な都市計画の提案でもありました。足元をピロティで持ち上げ人のスペースをかろうじて確保する集住の論理と住み手の問題を調停させるものでした。ところが、この環境でも、その原則は、とても有効に使われているのは、興味深いものがあります。のち、このヴィラがどれだけの建築家に影響を与えたか、計り知れないものがあります。柱、窓、螺旋階段など、ここで使われル・コルビュジエのボキャブラリーと似たものを、世界の建築家のそこここに見つけることできるほどです。 (鈴木 洋美)

森の中に立つサヴォワ邸