TIPコラム

デザインと構造技術の融合  国立代々木競技場(1964)

2023.02.27

 

間隔を約120メートルあけて立てられた2つの支柱にメインケーブルが架けられている

 『世界のタンゲ』を印象づけた作品が、代々木屋内体育館です。これは、第一体育館と第二体育館の2つの施設からなりますが、そのいずれもが「吊り構造」と呼ばれるものによって実現されています。たとえば、大きなほうの第一体育館を、棟に沿って垂直に切り離せば、中から登場するのは、「吊り構造の大橋」と同様なかたちです。本作品の構造設計者、坪井善勝によると、北九州の若戸大橋(1962、スパーン367メートル)を参考にしたものだといいます。間隔を約120メートルあけ2本の鉄筋コンリート製のメインポール(支柱)を立てて、メインケーブルを張り渡しています。大橋と異なるのは、メインケーブルに吊り鉄骨を接続し、その上に鉄板の屋根で葺いていることです。メインケーブルを、両末端でアンカレッジ(おもり)に緊結することで、力の均衡をたくみに保っています。

第一体育館の内観見上げ。センターの2本に分かれ、その間にトップライトと照明が仕込まれている

 建築の世界では前例のない、難易度も高い吊り構造が用いられたのは、設計者と構造家による緊密な共同作業があったからです。実際に設計が開始されたのは、1962年1月でした。竣工したのが、2年8か月後の1964年9月という極めて短い期間でした。設計チームと構造チームがそれぞれにアイデアを出し合い、かたちと構造を決めていったのです。デザインのアイデアは、2つの三日月の形をずらして配置することで、出入口をつくり出すというものです。 坪井善勝、川口衛らの構造チームは、構造設計の手法、施工法の蓄積もなく、当然、コンピューターによる構造解析も使えない状況下で、手まわしや電動の計算機を駆使して設計を進めていったといいます。現場での設計、仕様変更を繰り返しながら、完成させたのは本作品が国家プロジェクトとしての重みをもっていたからです。

支柱からアンカレッジに引き込まれるメインケーブル。メインケーブルには垂直に吊り鉄骨が接続され、その上に鉄板が葺かれる

 スパン約120メートルの無注空間。観客席は、約1万数千席。当初、水泳競技用の50メートルプール、飛込み台が設けられ、その後、スケート場、床をフローリングに替えて、各種球技場として、またイベント会場として用いられています。竣工して、ほぼ60年を経て、以前と同様に使われ続けている貴重な例といえます。翌年竣工した東京カテドラル聖マリア大聖堂(1964)は、難易度の高いHPシェルを用いていますが、このときも丹下は坪井善勝らの構造家との協働で作業を進めていました。これらの作品をとおして、デザインと構造設計を融合させた日本における「構造デザイン」の原形が生まれたといっていいと思われます。なお、現在、代々木競技場は、世界遺産登録をめざしてさまざまな作業が続けられているとのことです。(鈴木 洋美)

原宿口から第一体育館を見る(左)。一本の支柱からなる同じく吊り構造の第二体育館を見る(右)