TIPコラム

ステンレスをまとった洞窟空間  東京カテドラル聖マリア大聖堂(1964)

2022.12.26

道路側から見た外観

 見た目は、超現代風。まるで、フランク・O・ゲリーのチタンの壁が波打つビルバオのグッゲンハイム美術館のようです。シルバーのステンレスの貼られた壁が太陽光を反射します。かたちは不整形で、写真を見ただけでは、建築の用途はまったくわかりません。ところが、もし空から見ることができれば、その謎は氷解します。これは、丹下健三グループが、代々木総合体育館とはほぼ同時期に設計を進めたものです。HPシェルの8枚のRCコンクリートで、平面としては、変形した扇型状のかたちになっており、その天井部には十字型のスリット(トップライト)をもつ教会建築なのです。

入り口付近の見上げ

 平面の構成は、従来型の聖堂建築と重なる部分があります。つまり、中心にある新廊とそれと交差する側廊があります。近代以前のヨーロッパにおいて、教会という巨大建築が当時のハイテク技術の粋の結集であるとすれば、これも現代的な最新技術による教会建築づくりの挑戦であるといえます。いい意味で教会らしさを裏切るステンレスの外皮は、最軽量の金属でコンクリートの壁の耐久性を高めるため、HPシェルの採用はデザイン性と工期短縮などを調和せさるためのものでした。

中央の祭壇を見る

 教会建築の内部空間の質にも注目です。ゴシックによる教会建築がそうであったように高さへの挑戦を含みながら(もっとも高い祭壇部の高さは40メートルといわれています)、静謐な空間づくりに取り組んでいます。入口一段と下がった天井部分を抜けると、高さは一挙に20メートルほどへ拡大されます。ところが、屋根と一体になった壁が中心部分へと向かっています。つまり、教会内部の空間が求心的な構成となっているために、そこに身を置いたものには、コンクリートの壁によって包まれているかのように感じられるのです。それは、HPシェルという建築の最新技術を用いて、まるで洞窟の中にいるような、安心していられる空間創造となっています。ここでも、技術優先に見えて、建築空間づくりとの調和をはかっているのです。  

 外装のステンレスについては、2006〜2007年にかけて、全面的に改修が行われ、原設計の意図を尊重しながら防水性能を高めています。コンクリートの打放しの内部空間は1964年の竣工当時のまま。型枠の様子が刻印され、ちょっと無骨にも思えるコンクリートのテクスチャーのようすがかえって新鮮に見えます。 (鈴木 洋美)