TIPコラム

ぬけた空間でつながる大学キャンパス   日本女子大学・百二十年館(2021)

2023.03.28

2階より百二十年館のパティオを見下ろす

 近ごろ、少子高齢化が進むなかで、都市郊外へとキャンパスを広げていた大学の都市回帰が大きな流れとなっています。ここで紹介する、日本女子大学の場合もそのひとつです。東京・文京区の目白キャンパスに、川崎市生田から学生と教員あわせて2000人が同時に引っ越し、2021年4月から新学期を迎えられるように計画がなされました。それは、ちょうど開校120周年の節目にあたります。前学長より直々に、同校出身で、世界的な建築家として活躍する妹島和世さんに白羽の矢が立ち、妹島さんは、新図書館(2019)、百二十年館、杏彩館(2021、食堂、学生スペース)を設計しています。

ピロティ側より見た百十二年館の外観。1階の半分はピロティとなっている

 日本女子大学のキャンパス配置を見ると、その時々の必要に応じて、必要な建物が建てられてきたことがわかります。七十年館、八十年館、百年館そして今回の百二十年館というように、建てられた年がそのまま建築名となっています。構内には、ほかにも大正時代に建てられた建物、創立者である成瀬氏の名前が付けられた講堂、さらに生家までが移築されています。時代背景も、かたちも規模も違うものが層をなしていますが、全体の印象はバラバラに見えます。その中に、新たな建築を付け加えることで、キャンパス全体のバラバラ度を進めないため、妹島さんは、設計者でもある篠原聡子学長と相談しながら、キャンパス計画をまとめています。「目白の森のキャンパス 5つのコンセプト」が掲げられ、緑でキャンパスをつなぐ、既存建物と新規建物の融合したキャンパス、地域とともにあるキャンパスなどの基本方針が示されています。新たな建物を付け加えると同時に、ゆるやかに全体を再構成することがめざされたというわけです。

2階廊下よりパティオを見る。床から立ち上がるサッシは、換気用に開閉できるが、
途中でロックがかかることで安全面に配慮がされている

 妹島さんの設計したものは、このコンセプトに沿ったものとなっています。たとえば、百二十年間は、ガラス、コンクリート床、鉄骨で構成されていますが、ル・コルビュジエらのモダニズム的な手法であるピロティ、横連窓などを用いることで、周囲環境と連携をもたせています。1階の床面積の半分は壁のないピロティとなっていますが、周囲の建物とつながり、さらには、建物に囲われた緑の空間である地階のパティオ(中庭)への導入となっています。パティオは、全学共通で利用されるラーニング・コモンズへのアクセスともなっています。建物によって<ロの字>に囲われたパティオへの求心性を高めているのが、2、3階の横連窓です。2、3階の廊下にある、床から立ち上がるサッシにより、歩行者の目線を、すべてパティオに向かうように誘導されています。建築家は、キャンパス融合のために、地階のパティオ、1階のピロティという、いわば「ぬけた空間」を巧みに用いており、モダニスト的手法を洗練させた実践例となっています。(鈴木洋美)

百二十年館のパティオより地階のラーニング・コモンズを見る