TIPコラム

「自由」に学ぶことのかたち  自由学園 明日館

2021.11.26

 子どもを鋳型にはめる教育に代わり、子ども自身のもつ力を引き出そうとする動きが大正時代にありました。こうした「大正自由教育」の流れの中で、従来の公教育に代わる学校群が登場します。羽仁吉一・もと子が創立した自由学園(1921、東京・池袋)は、その代表的なもののひとつです。フランク・ロイド・ライトと遠藤新というふたりの建築家の協働によって、その中身に合った新しいかたちがつくられました。

従来の校舎は、「カマボコ型」の兵舎と揶揄されます。四角い教室が、ただ横に並び、上下に重ねられたものと比べると、自由学園(明日館)との違いは明らかです。校舎の中心にみなが集まれるホールがあり、その後ろには、昼食をみなで食べる食堂があるのです。「生活即教育」を掲げた学園の教育方針にかなった配置となっています。

正面外観:鳥が翼を広げたかのように軽やかな屋根

 眼を再び、自由学園の正面に向けてみましょう。親鳥が羽を広げたような軽やかな屋根形状となっています。装飾はとても簡易なものの、まるで「ステンドグラス」のような透過性のあるファサードとなっており、それが建物全体の顔になっています。面白いことに、屋根の軽やかな三角形のかたちが、このファサード、窓、建具などに取り入れられ建物全体に有機的に広がっています。よく見ると、ライトの弟子で設計を共同であたった遠藤の設計した子ども用の椅子の背まで、この三角形が使われています。

正面中央ホールの内観:屋根のかたちがデザインモチーフ

 また、随所でライト流の演出がされています。エントランスから入った先にあるトップライトによる暗から明への変化、天井高を低から高へと転換させて空間に可変性を生みだしています。

エントンランスとトップライト:入口の戸にも、正面のステドグラスのモチーフ

 建物の内部を走る濃い茶色に塗られた水平のボーダーが、建物全体にリズムとメリハリを与えています。食堂では、ライトによってデザインされた照明器具が空間を織りなします。

食堂:屋根型の天井とデザインされた照明が空間を彩る。中央には、暖炉がある

 ところで、自由学園(明日館)は、1921年1月の設計依頼にはじまり、2月に設計、3月に着工し、4月15日はひと教室だけ完成させて新入生26人を集めて開校式を行なうというあわただしさ。東側棟を含めて完成したのは1925年。木造建築のもつ融通無碍な特徴を生かした工事の進め方でした。学生数の増加、初等科の設置などもあり、校舎としては13年間使われた後、校友会などの拠点として使われてきましたが、老朽化が進み一時は廃屋状態でした。ところが、国の重要文化財として、動態保存(建物を使いながら保存する)のモデルとなり、1999年に工事が始まり、2001年に工事完了させています(講堂は、遅れて2017年に工事完了)。建物を部材単位でバラバラにして、使えるものは使うという方針で、竣工時の姿を取り戻しています。そのため、ガラスとその枠、金具など、おそらく竣工時のものがそのまま使われている箇所もあります。中央ホール(ファサード)の「ステンドグラス」のガラスが、小さな窓を組み合わせて開閉可能なようにつくられていることにも驚かされます。当時の部材を通して保存再生された姿から、竣工時にたずさわった設計者と職人たちの協働作業の様子が垣間見られる気がしました。 (鈴木 洋美)