実験の裏付け2019

近畿職業能力開発大学校での振動実験試験結果報告

令和元年12月、近畿職業能力開発大学校(大阪府岸和田市)において振動台による振動実験を行いました。現況の木造住宅の耐震設計は、静的加力試験結果から導出された耐力壁の基準耐力による壁倍率設計法により設計されています。しかし、実際の地震による建物への載荷は動的加力による繰り返し荷重であり、木質構造のように繰り返し荷重に対して脆弱な建物では基準を満たしていても大地震に耐えられるとは限りません。 TIP構法と筋かいを併用した耐力壁が高い倍率の耐力壁となりうることに注目し、45×90筋かい(2倍筋かい金物で接合)の耐力壁とTIP構法45×90筋かい入り耐力壁との比較の実験を行いTIP構法のもつ耐震性能の検証を行いました。


3Dモデル図

本試験における最大加力が現在の建築基準法で規定されている震度Ⅶの地震(最大速度50Kine相当)の2倍の入力波とすることから、安全を確保するため試験体を設置するレールの外側に鉄骨フレームを設置して倒壊防止対策とした。

【筋かいのみの試験体Ⅰ】

1回目 震度5弱相当(中地震)10kine(予備加振)
2回目 震度5弱相当(中地震)10kine
3回目 震度7相当(大地震)50kine
4回目 震度7の1.5倍(耐震等級3レベル)75kine
試験体が耐力を失い破壊
5回目 震度7相当(大地震)50kine

(注)1kine=1cm/sec

【TIP構法筋かい入り試験体Ⅱ】

1回目 震度5弱相当 中地震 10kine
2回目 震度7相当 大地震 50kine
3回目 震度7の1.5倍 耐震等級3級レベル 75kine
4回目 震度7の1.5倍 耐震等級3級レベル 75kine
5回目 阪神淡路の地震波と同等 90kine
6回目 阪神淡路の地震波と同等 90kine
7回目 現在の地震発生状況から大手設計事務所・大手建設会社で想定している500~1000年に一度の地震
「極めて稀に起こる地震」100kine
繰り返し加力の後も試験体破壊せず


筋かいのみの試験体では最大速度75kineに基準化して入力した時点で試験体が耐力を失い破壊に至っていましたが、TIP構法筋かい入り耐力壁の方は最大速度100kineに基準化して入力しましたが明確な耐力低下は認められませんでした。

木造耐力壁は繰り返し加力に対して脆弱ですが、TIP構法では繰り返し加力に対して柱の曲げ耐力の利用によって
フレーム全体の耐力が急激に低下することのない耐震性に優れた構法であることが検証できました。

大規模ハイブリッド1軸振動試験装置(IMV製)

近畿職業能力開発大学校 藤村悦生教授の解説
建築基準法の耐震規定は、1986年に施行された新耐震設計法が基本となっています。以前の規定では水平震度0.2(地震時に建物にかかる水平せん断力が建物重量の0.2倍との規定)でしたが、2002年以降(限界耐力計算)にさらに細かく規定されています。具体的には、建物の設計レベル2段階(損傷限界、安全限界)を想定して設計することとなっています。
・損傷限界とは建物に損傷が発生しない段階、気象庁の震度階でいえば震度5弱の地震となります。この地震は50~60年に一度の地震でRCの供用期間が60年であることから建物が一度以上遭遇する地震であり「稀に起こる地震」とされています。水平せん断力は建物重量の0.2倍 現在では地震が建物に作用するエネルギー量が問題となっていることから、10kine(10cm/sec)の最大速度を持つ地震波と規定されています。
・安全限界とは建物が倒壊しない限界であり、気象庁の震度階でいえば震度7(震度6強以上)の地震となります。この地震は500~1000年に一度の地震で、建物がこんな地震に遭遇する可能性は低く、「極めて稀に起こる地震」であるとされています。(最近は、地震の繁忙期になっているみたいでよく発生しているように見えますが、 例えば神戸で阪神淡路の震災以降この規模の地震は発生していません)水平せん断力は建物重量の1.0倍(ただし、建物が弾性応答した場合⇔建物が損傷を受けなかった場合)エネルギー量は、50kine(50cm/sec)の最大速度を持つ地震波と規定されています。
すなわち、新耐震以前は建物に作用する水平せん断力に耐える(力に対して耐力で勝負)設計でしたが、水平せん断力は建物重量の1.0倍もの耐力を有する建物は一般建築物ではないこと、地震によって建物が吸収すべきエネルギーを吸収できれば建物は倒壊せず人命の安全は保障できる、ゆえに、万が一の大地震に対して安全(人の命)が確保できれば良いとの考えが基本になっています。
今回の振動実験では、TIPの耐震壁の方での、3回目 75% 4回目 75% と同等の入力とした理由は、木造の構造体が損傷を受けた場合(壊れ始めた場合)測定結果に明確に反応します。今回の実験結果では、明確な反応はなかったと思います。5回目 90% 6回目 90%でも同様で、100%入力であっても十分に耐えており優れた工法であると結論できると思います。